「レガシーピアノ保存プロジェクト」のクラウドファンディングを応援いただき、誠にありがとうございました。皆様のご支援により、実施期間の2022年7月29日~同10月31日に目標金額1000万円を超え、約200万円を積み上げることができました。
支援金に添えて、ピアノそのものやサインを残した音楽家、福岡市民会館にまつわる思い出、福岡の音楽文化の未来に馳せる想いなど、たくさんの素敵な応援メッセージも頂戴しました。当初は「ピアノに託す私たちの思いを伝え、広げられるだろうか」と不安ながらの船出でしたが、続々と寄せられる皆様の支援、励ましに実行委員会メンバー一同、勇気づけられ、感動しながら取り組む日々でした。
ここに目標の達成をご報告しますと共に、多くのご支援、ご協力に対しあらためて深く感謝を申し上げます。皆様からいただいたご支援は、このピアノの修復と保存・活用のため大切に使わせていただきます。
修復完成記念お披露目コンサートは、2023年10月8日(日)に福岡市民会館で開催を予定しております。日本を代表するピアニスト・仲道郁代さんをはじめ、萩原麻未さん、福間洸太朗さん、中野翔太さんら次世代を担う演奏家たちの手で、このレガシーピアノに命を吹き込んでいただきます。多くの市民の思い出が詰まった福岡市民会館を舞台に、よみがえるレガシーピアノの美しい音色と煌めきを一人でも多くの方々と分かち合うため、当実行委員会は着実に準備を進めると同時に適宜、ピアノの復活にまつわる情報発信をしてまいります。
来秋のお披露目の機会をぜひ楽しみにお待ちください。
2022年11月1日
レガシーピアノ保存プロジェクト実行委員会
会長 柴田建哉
ピアニストのケンプ、アラウ、ルービンシュタイン、エッシェンバッハ。バリトン歌手のF.ディースカウやソプラノ歌手のE.シュワルツコップ、チェリストのロストロポーヴィッチ…20世紀のクラシック音楽の巨匠たちがこぞって直筆サインを寄せた一台の古いグランドピアノが、福岡市に眠っています。これらのサインは、昭和後半期に世界から名演奏家が来演し、地方に音楽文化が普及していった足跡を示します。他に類を見ない「レガシーピアノ」です。
私たちはこの貴重な「福岡の音楽文化を象徴する遺産」であるピアノを保存修復し、再びその音色を未来に響かせたいと夢を描きました。これから約一年をかけて修復をし、演奏会や観覧展示などで活用していく予定です。
地域や企業・団体、個人を問わず、幅広く支援を募ります。趣旨に賛同いただき、国際的にも活躍されているピアニストの仲道郁代さん、国府弘子さんらアーティストから早くも支援の声をいただいています。
修復と活用の総事業費は、約1800万円の高額な費用が見込まれます。全額を寄付で賄う計画です。クラウドファンディングは、そのうち1000万円を最終目標に寄付を募ります。まずは500万円を第一目標といたします。
ゼロからのスタートですが、私たちは、将来を担う子どもたちにこのピアノを引き継ぎ、広く音楽を愛する気持ちをはぐくむためにも、必ず実現させたいのです。みなさまのご支援をよろしくお願いします。
レガシーピアノ保存プロジェクト実行委員会
当地福岡に於いて、1963(昭和38)年10月に「西日本一の音楽堂」の呼び声高く福岡市民会館(福岡市中央区天神)が開館しました。
開館に合わせて、福岡市が購入したのが独・ハンブルグ・スタインウェイD型のコンサートグランドピアノです。市の記録によると81(昭和56)年頃まで同館で使用されていたようです。ピアノのサインの大半は、この期間に来演した演奏家たちが残したものです。
ピアノはその後、近隣に新たに開業した福岡サンパレスホテル&ホール(福岡市博多区築港本町)に移され、しばらくはホールで使用されましたが、老朽化と傷みが目立ち始め、2000年代に入ると使われる機会も減り、やがて同施設内の片隅で保管されたまま現在に至っています。(※)
ピアノに残されたサインは、全部で38人分です。残念ながらうち6人分は、アーティストの名前を判別できません。私たちは今なお調査を続けています。
このように多数の世界的音楽家が同じピアノにサインを残した例は、専門家たちも異口同音に「他にあまり聞いたことがない」「唯一の例ではないか」と驚かれています。歴代の演奏家が弾いたピアノに次々とサインをする慣習はあまりないそうです。
福岡という一地方都市が、20世紀半ばの高度経済成長時代に先駆的な音楽ホールを得て、名演奏家が次々に来演したことによる、偶然の産物だと考えられます。
私たちは、世界の第一線で活躍する、国籍も人種もレパートリーも異なる音楽家たちが、福岡市を訪れて演奏した事実を自ら記録したサインは、市民にとっての文化遺産に値すると考えます。訪れた演奏家たちは街の地域性や聴衆に好感を抱き、親交の情をこれらのサインに託したのではないでしょうか。
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「福岡市民会館に世界の名演奏家たちが、いくつもサインを残したピアノがあるらしい」―プロジェクトが始まるきっかけは、ある市民の声でした。
60年の時を経て老巧化が顕著となった市民会館の隣接地に、代わりとなる新しい拠点文化施設の建設が始まっています。声を寄せた市民は、新施設の完成後に市民会館は閉館して解体される計画であることから「貴重なピアノが人知れず廃棄されてしまうのではないか」と心配をしていました。
私たちはそんな声を耳にして、ピアノについて調べ始めました。ずいぶん以前に市民会館から福岡サンパレスホテル&ホールに移されたピアノが、そのままずっと保管されていることが分かりました。サインは38人分あることや、長い年月を経る間に、薄れたり、消えかかったりしていることも確認できました。苦労をしたのは、サインをした人物の特定です。福岡市民会館には当時の記録がほとんど残っておらず、サインと照合する資料がありませんでした。サインが残された経緯も分かりません。明確に判読できるごく少数を除けば、誰のサインなのかも不明の状況です。そこで、個々のサインに見当をつけた音楽家のサインと照合したり、古い音楽雑誌の演奏会記録と突き合わせたり、といった作業を積み重ねました。
サインを残したアーティストの多くは既に他界されています。幸いにご本人が存命で、じかに連絡がとれたエヴァ・オシンスカ氏は「確かに自分のサインです」と感激してくださいました。
世界的にご活躍のフルーティスト工藤重典氏は「確かにわが師であるJ.P.ランパル先生のサインです」と仰って、当時の来日公演スケジュールや様々な情報を提供してくださいました。
こうした作業を積み重ね、サインの全容が明らかになってくると、調査に協力してくださった音楽関係者からも「貴重なピアノだ。文化遺産として守ろうじゃないか」という声が高まってきました。ピアノを所有する福岡市も趣旨を理解くださり、こうして「レガシーピアノ保存プロジェクト」が動き始めました。
この、1963年製のフルコンサートグランドピアノは、奥行き274㎝、横幅175㎝で、鍵盤は今ではとても貴重な象牙が使用されています。
60年に及ぶ経年劣化とともに、各所に運搬によるであろうと思われる傷が多数あります。そして、ピアノの心臓部ともいえる響板に数か所のひび割れがあり、演奏に耐えうるものではないことがわかりました。
修復に関しては、様々な議論がありました。サインの残されたフレームのみ保存すればいいのではないか?ピアノの損傷部分のみ修復し、福岡の音楽史を語る遺物として博物館に保存・展示してもらえばいいのではないか?
しかし、楽器は音を奏でてこそ息を吹き返し、修復の意味があるとの結論に至り、今回の大手術を行うことにしました。
修復後は、福岡の観光名所の一つである大濠公園の福岡市美術館に収蔵します。同館で定期的に展示公開し、楽器が辿ってきた歴史やサインを遺したアーティスト達について解説したパネル設置やリーフレット配布などで、このレガシーピアノの意義を広く知ってもらいます。また、演奏会や様々なイベントを通して、市民のための音楽普及活動に活用していきます。
修復は、2023年の9月に完成予定です。修復完成記念として、来年開館60周年を迎える福岡市民会館にピアノは里帰りし、一流アーティストたちによるガラ・コンサートを開催する予定です。このピアノが、修復を経て生まれ変わり、新たな音色を奏でる喜びを皆さんと一緒に分かち合いたいと思います。
私たちがクラウドファンディングに取り組むのは、「レガシーピアノ保存プロジェクトは一人でも多くの音楽ファンの支援を得られ実現させてこそ意味がある」と考えるからです。人間でいえば「還暦」に当たる60年の歴史を刻んだピアノは、これまで数多くの名演奏を支え、福岡の聴衆に届けてきました。また、そこにサインした世界の巨匠たちは、音楽によって世界中の人々の胸を打ってきました。それらすべての音楽を愛する人の手で、その力を結集して、ピアノの修復を実現したいのです。
支援をいただいたみなさまに、修復してよみがえったピアノの音色を聴いていただくお披露目コンサート・プランのほか、プロジェクト限定グッズなどを返礼品とします。どうぞ広く皆様のご支援をお願いいたします。
2023年10月中旬の週末に、開館60周年を迎える福岡市民会館で開催します。
日本を代表するピアニストの一人、仲道郁代さんと共にピアノの醍醐味を存分にお楽しみいただきます。20世紀の巨匠たちが演奏してきたレガシー・ピアノを、21世紀を彩るピアニスト達が競演する夢の時間をお届けしてまいります。出演者は随時発表させていただきます。ぜひお楽しみに!
アーティストからの応援メッセージ
小学5年生の1973年、私はヴィルヘルム・ケンプのコンサートに行きました。ケンプの弾くベートーヴェンが聴かせてくれた深淵さは、神々しく見えたケンプの姿と共に、今も鮮やかに思い出されます。今回修復されるピアノにも、同じような瞬間がたくさん積み重なってきたのだと思います。このピアノを演奏した名人たち、それを聴いて育った人たち、このピアノの音と共にある多くの方のたくさんの思い出。大切に受け継いでいかれることに敬意を表します。
レガシーピアノ保存プロジェクト、賛同します。自宅のピアノも長年丁寧なメンテナンスを受け、仲良く暮らしています。
さて、このレガシーピアノ。残されたサインにはブラジルの大物セルジオ・メンデスや、ビリー・ヴォーンのカタカナのサインもあって微笑ましい。このピアノと、私の大好きな福岡市美術館で音のおしゃべりをする日を心から楽しみにしています。
この福岡市民会館のピアノは、世界的にも大変貴重なものと言えるでしょう。C.アラウ、L.クラウス、F.ディースカウ、またE.ギレリス、W.ケンプやA.ルービンシュタイン、そしてわが師であるジャン・ピエール・ランパルなど、名だたる往年の巨匠たちのサインが残っているとは!! これらのサインが施されたピアノの存在は、日本のクラシック音楽の普及と共に、それを支えてきたアーティストや聴衆がいた事の証です。
このような唯一無二のレガシーピアノは、これからも守り続けられることを願っております。
実行委員会は、福岡市からピアノを借り受け、修復して返還する活動に取り組みます。
委員会のメンバー構成は次の通りです。
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福岡市中央区天神1-4-1 (西日本新聞イベントサービス内)
TEL.092-711-5491 FAX.092-731-5210
E-mail: [email protected]