市井にいきるトランスジェンダーと、となり合わせるわたしたちのための物語--トランスジェンダー漫画家「とらんす少女ちゃん」初短篇作品集 『となりのとらんす少女ちゃん』(仮)

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11月26日(火) 更新

本クラウドファンディングは、11月23日(土)24時をもちまして終了しました。

今回のクラウドファンディングをご支援くださったかたは271名、ご支援金総額は202万8700円となりました。
支えてくださった全ての皆さまに、謹んで御礼申し上げます。

これより2025年春の刊行を目指し、プロダクションを本格化してまいります。楽しみにお待ちください。

 

合同会社在野社
代表・編集責任者 浅野葛
 


 

9月24日(火) 更新

本クラウドファンディングは、9月22日(日)中に、第一目標金額の50万円を達成し、成立しました。

(実質的な)開始からわずか12時間あまりのことでした。その支援の広がりの早さに、作者/版元とも驚きを持って受けとめながら、これだけ多くの声援に支えられている幸せを噛みしめることとなりました。

皆様、本当にありがとうございます!

次なる目標は250万円。5000部の制作費用です。

本作「となりのとらんす少女ちゃん」をヒット作にし、とら少先生により大きな場所へ羽ばたく契機を贈りたいです。

引き続き皆さま、よろしくお願い申し上げます。

合同会社在野社
代表・編集責任者 浅野葛
 

 



本作「となりのとらんす少女ちゃん」(仮)は、トランスジェンダーである自身の経験をベースにした漫画作品をTwitter(現・X)やPixivといったSNSへ精力的に発表し、繊細な筆致と無二の表現力でセクシャルマイノリティ当事者をはじめとする多くの人々の共感と支持を得てきた「とらんす少女ちゃん」の初となる短篇作品集です。2025年春の発売を目指し、目下、制作が進んでいます。

このたび、より多くのひとたちに届けるための資金を調達するとともに、作品の単行本化が待たれていたとら少さんの、満を持しての”デビュー”を盛り上げていこうという目的で、クラウドファンディングを実施する運びとなりました。
まだとら少作品を未読のかたも、これを機会にぜひ「とら少ワールド」を深く知っていただくとともに、応援の輪へご参加くださると嬉しいです。

編集/文責:浅野葛(合同会社在野社代表・チーフエディター)
 



今クラウドファンディングに関する注意事項

◯2024年11月23日(土) 23:59までに目標金額の100万円に達するとクラウドファンディング(CF)は成立します。
目標金額に達しなかった場合、CFは成立せず、ご支援いただいた金額は決済されません。本クラウドファンディングは目標額を達成し、成立しました。
◯目標金額を達成した場合も、締め切り日時まで募集は継続されます。

ご支援方法はこちら >>

ご支援の受付は終了いたしました
 


 

もくじ

  1. 「とらんす少女ちゃん」とは?:作者紹介
  2. 単行本プロジェクト立ち上がりの経緯と進捗状況
  3. とら少作品が描き出す世界
  4. 書籍概要
  5. 作者より
  6. 応援コメント
  7. 作品試し読み 
  8. ご支援のコースと返礼品一覧
  9. ご支援金の使用用途
     

 

1.「とらんす少女ちゃん」とは?:作者紹介

▶︎とらんす少女ちゃん
大阪出身。学生時代に漫画制作を開始。大学在学中の2014年よりTwitter(現・X)やPixivなどのSNS上にて作品の投稿を続け、注目を浴びる。
2019年発表の「未来の自分に女になるよう説得される話」は有志の手によりスペイン語、中国語など、多言語翻訳された。
トランスジェンダー(MtF※)であることを明かしており、自身の体験に基づくリアルなセクシャルマイノリティの姿を描く作品が多いが、端役に至るまで登場人物の心理の機微を細やかにとらえる表現力は、紋切り型のマイノリティ/マジョリティという枠組を超えて、「人間」という存在そのものへの深い理解に肉薄する。

※Male to Femaleの略。トランスジェンダーのなかでも、出生時に男性として性別を割り当てられたが、女性として生きることを望み、性別移行(トランス)を試みる人のこと。

Pixiv:https://www.pixiv.net/users/12258441
X:https://x.com/trans_shojo


(「なにせ男だから」(仮)より)

「とらんす少女ちゃん」は、トランスジェンダーである自身の経験をもとに、市井にいきるトランスジェンダーやその周囲にいるひとたちのリアルな物語を生み出すことに心血を注いできた。ネット上でのトランスバッシングの激化を横目に、ただひとり、トランスという存在やその現象/体験にある本質を粛々と描く。
特定のテーマのもとに編まれたアンソロジーコミックというわけでもなく、単独の作者によるトランスジェンダーの作品集は例を見ない。穿った見かたをすれば、「トランス」というテーマがそれほど多彩な世界を描ける題材だとは思われていなかったからだろう。それも頷ける。従前のフィクション作品において、トランスジェンダーは一種のステレオタイプに偏ったキャラクター設定をされることがほとんどだった。しばしば、妖艶さ、不可思議さ、エキゾチックなムードをともなって登場するのは、われわれのオリエンタリズム的な偏見や、潜在的な差別意識を反映しているからだと言えなくもない。
しかし、シスジェンダー※1のパーソナリティがそうであるように、トランスもまた多様な表現をもつ。女児向けアニメに異様に詳しいFtM※2や、化粧をしないMtFだってめずらしくはない。それが現実だ。


※1 男性(女性)として生まれ、現在、男性(女性)として生活しているひと。すなわち出生時点の性別(Sex)と社会的に扱われる性別(Gender)が一致しているひと、ともとらえられる。
※2 Female to Maleの略。トランスジェンダーのなかでも、出生時に女性として性別を割り当てられたが、男性として生きることを望み、性別移行(トランス)を試みる人のこと。MtFと対になる概念。

 

現実に依拠した物語は退屈だろうか。リアルから意識を切り離せることが、フィクションの醍醐味だろうか。
たしかにそうかもしれない。しかし、それは正しい現状認識と理解が行われたうえで、ようやく可能になる。「トランスジェンダー」ということばが登場するとき、いつも「トイレは”どちらのもの”を使用するのか」「公衆浴場ではどうするのか/そういった場所にいきたいか」というような事柄ばかり論われる現状では、まったくその段階に届いていないと感じる。

ひとつのテーマを描き続けてきたからこそ、見えるものがある。多様なトランスジェンダーの生きかたが、この作品集にある。
トランス問題に心を痛めるひとたちはもちろん、トランスジェンダーという存在に懐疑的なひとにこそ、ぜひ読んで欲しい。なにがなんでも異性スペースに入りたがるモンスターではない、かといって差別や偏見に立ち向かうヒーローでもない。ただの人間である。ただの人間でしかない、あなたのとなりに生きるトランスジェンダーを知って欲しいのだ。


(「未来から来た自分に女になるよう説得される話」より)※リテイク前/作品集に収録する品質とは異なります。

(「友達を家に呼べない男子の話」より)※リテイク前/作品集に収録する品質とは異なります。

 

2.「とら少」単行本プロジェクト立ち上がりの経緯

合同会社在野社代表、およびチーフエディターを務める浅野葛(かつら)と申します。

本作の版元となる「在野社」は、本年2024年5月9日に静岡県沼津市で創業しました。
社名は「在野研究」※という営みに着想を得て、有名ではなくても真に価値のある活動をしているひとや、その表現に光を当てたいという思いを乗せたものです。
限られた都市部に富や文化が吸い取られてしまっている現状にあって、地方都市という「在野」から全国へ、世界へ発信する拠点に育てたいと考えています。


※在野研究 大学などメジャーな研究機関に属さない民間人が、自身の責任において物事を研究すること。設備や予算の上において難がある反面、学会や権威のしがらみを受けにくく、独自の視点で研究を進められることがメリットに挙げられる。ベストセラーになった「土偶を読む」(竹倉史人/晶文社)も在野研究の一例である。


ただ、特に大きな狙いがあり沼津という環境を選んだわけではありません。
わたし自身は県中部の静岡市で生まれ、高校を出るまで当地で育ちました。高校卒業後の2年ほど、沼津出身の母とともにこのまちで暮らす機会がありましたが、以後わたしは単身、広島、横浜と各地を転々とすることになります。県外で暮らす時間が、故郷で暮らしたそれを上回るようになり、そのうち「もう二度と沼津、ひいては静岡県に戻ることはない」と思うようになりました。
ところが、たまたま事情があってしばらくのあいだ母の家に居候させてもらうことになり、図らずももういちど接点が生まれました。それも数ヶ月ほどの短い滞在のつもりで住民票を移したつもりが、ひょんなことから沼津のコミュニティにどっぷりと浸かることになって、なし崩し的にいまに至っています。

沼津のコミュニティのおもしろいところは、かざらなさ。
地理的に首都圏が近いため移住されてくるかたも多いのですが、そうしたひとびととともに「おまえ何中?」で呼び合うような濃密な地元民が打ち解け合い、わきあいあいと宴の席を囲んだりもする。
そして、なにかあたらしいことを始めようとするひとがいたとき、親身になって手を差し伸べてくれたり、背中を押してくれる。
そうした屈託のない雰囲気のなか、漠然としたイメージにすぎない「出版社をもつということ」はかたちを現しはじめました。   

一方で、実母をはじめとして親族が長く住まうこのまちは、まったくご縁のない場所というわけでもありません。小社の本店所在地も、むかし母方の祖父が営んでいた建設会社の事務所として使われていた場所です。
そのように、自身のルーツと、あらたに得たコネクション。在野社が生まれた背景には、ふたつの有形無形の財産があります。





沼津市内の古民家コワーキングスペース「シンマチ」。浅野の沼津におけるコミュニティ活動の基盤であり、現在も在野社が実質的な拠点にしている。「会社祝」は在野社の設立日当日に、親しい会員さんたちとともにちょっとしたお祝いをしたのだが、そのときに管理人の山崎友也さんが即興で書いてくれたもの。https://kinarishay.wixsite.com/shinmachi4

 

そのような背景のなか立ち上がった在野社は、初刊行書籍を企画するにあたり、小社の理念を端的に体現している描き手として「とらんす少女ちゃん」さんに作品出版を提案しました。
フィクショナルな記号としてのトランスジェンダーではなく、そのリアルな内面を掘り下げるという難しい題材を扱っているにもかかわらず、情緒豊かな一本の漫画作品として読ませる才能をかねてより敬服していたためです。
本年2月に契約合意に至り、書籍の内容は過去作3本のリテイクと、本作に向けた書き下ろしとなる新作1本とするなどの方針も固まりました。
9月現在、すでにプロとして活躍されている漫画家のアドバイスなども受けながら、過去作1本の写植を含めた組版が完了し、他2本のペン入れ作業と新作のネーム作業が続いています。



本作はとらんす少女ちゃんにとって初となる単行本であり、在野社という会社にとっても社運を占う重要な初刊行書籍ですが、もうひとつ、わたしの書籍編集者としての「デビュー作」でもあります。
この場を借りてすこしだけ、編集者として作者に伴走するわたし自身の事情に触れるとともに、もうすこし詳しく本作の出版企画がどのように固まってきたのか、書きたいと思います。

わたしは長く映像制作の現場で働いており、特にここ数年はポストプロダクションスタジオ※に勤務したり、映像編集業務が仕事の大半を占めていました。
もともとは「映像」の編集者だったのです。

※ポストプロダクションスタジオ
映像編集や録音と音声のミキシング(MA)、および映像ソフトの最終的な調整を行うスタジオ。主にテレビ局や映像制作会社が依頼主になる。

映像編集者としての浅野の最新の仕事であるドキュメンタリー映画「editor.o 世に出でし文人指にあまるさへ誇ることなし酒よりほかに」(監督:川口ひろ子)
河出書房新社に所属していた書籍編集者・長田洋一氏の人生を追ったもので、期せず、これから書籍編集者の道を志すものとして、学び、励まされることの多い仕事となった。©︎信州の老編集者「本の寺子屋と係る」制作委員会

 

一方で小説を書き、いずれはいわゆる「五大誌」と呼ばれる有名な文芸誌の主催する文学賞などでデビューすることを目指していました。その夢は残念ながら2024年現在叶ってはいませんが、その過程で芥川賞作家・村田沙耶香氏を輩出した文芸サークルとして知られる「横浜文学学校」の運営委員を務めたり、詩人・高細玄一氏との共同編集による同人誌「温々」(ぬるぬる)を刊行するなどの活動をするなか、「出版社を立ち上げる」という漠然としたプランが脳内に広がっていきます。
「夏葉社」の島田潤一郎さんや、「点滅社」の屋良朝哉さんと小室ユウヤさんといった、いわゆる「ひとり出版社」と呼ばれる小規模出版社を立ち上げたひとのなかでも、わたしとおなじように書籍編集未経験でこの世界に飛びこまれたかたがたの精力的な活動を漏れ聞いたことも多分に影響していると思います。



横浜文学学校 https://yokobun.com/

同人誌「温々」第1号。浅野はコンセプトワーク、編集、ロゴを含むアートワーク、DTPを担当。また『「世界でいっとうぬるい闘い」試論』という文章を寄稿している。

いよいよ、その一歩を踏み出すことを決意したのは2023年11月。
その根本の経緯まで書くと本作の話から大きく逸脱するうえ、到底ここで読み切れる量ではなくなってしまうので割愛しますが、ひとつ忘れえぬ風景があります。

2022年の4月から5月にかけて、とある事情で1ヶ月ほどタイのバンコクに滞在していました。いよいよ帰国という段階になり、空港へと向かう車でなんとなく窓の外を眺めていたら見えたのが「Bon Voyage(良い旅を)」と書かれた看板。
雨季のはじまりのうすぼんやりした青空が背景になって、この看板がやたらと目についたのです。
シンガポール経由で帰国するため、午前中の早い時間にこの場所を通過していました。タイから日本へ向かう便の多くは深夜発のため、もしそれらを選んでいたとしたらそれほど気にすることはなかったかもしれません。



バンコク・スワンナプーム国際空港へ続く高速道路上に掲げられた看板。この日が5月9日。在野社の設立日もそれに合わせた。

帰国する人間にたいして「良い旅を」とはなんだか皮肉ったものだと感じましたが、その後の2年でわたしが辿った道を思い起こすと、やはりあれはただの「帰国」ではなく、「あたらしい旅」のはじまりだったのだと、その暗示だったのだと思い返します。
旅立つまでのじぶんだったら、会社設立などというリスクを取ることはできなかった。でも、あたらしくやってきたこの場所は、いままでとはいろんな法則がちがう。
これまでに築いてきたセオリーに収まりきらないことを苦々しく思ったりもしたけれど、ひとつずつ順応するなかですこしずつ、自らの思いを乗せた会社をつくるという機運が醸成されていきました。

心意気やよし、しかしながら「夏葉社」や「点滅社」のビジョン、戦略をなぞってもしょうがない。とくに出版不況と叫ばれて久しいこの時代、巨人というにふさわしい大手出版社ですら存続可能性は不確定だというのに、風が吹けばたちどころに飛んでしまいそうな零細企業が、自らの武器をもたずに戦っていけるはずもありません。
ならば「在野社」にしかできないことはなにか、われわれの必然性はなにかと原点を深く掘り下げていくと、はたと思い当たるものがありました。それが「とらんす少女ちゃん」の存在です。

話が前後するものの、とらんす少女ちゃんという漫画家をはじめて認識したのは2019年のことです。
トランスジェンダーへのバッシングが目に付くようになるTwitter(当時)で、その著作に触れました。  
まだ荒削りながらも、人間の深層を衝き、ドラマに落としこんでいく作劇の才能。たちどころにその世界のトリコとなると同時に、早晩、世のなかの知るところになるだろうとも感じました。そのころにはすでに、個人のSNS上を主な発表媒体とする自主制作漫画であっても、価値のあるものを描き、出版社の目に留まれば書籍化されるという流れが定着していたからです。





実は、トランスではないテーマも多く描いているとらんす少女ちゃん。母親のネグレクトを受ける高校生が、それでも捨てきれない自らの希望をおなじような境遇をもつ少年に託すワンシーン。ことばを選ぶセンス、構図やコマ割り、表情……どれを取ってもこの漫画家にしか描けないゆいいつのもので、その才能の萌芽を感じる。(「とらんす少女ちゃん 大学受験編」より)


当時のわたしはその作品群にのめりこむとともに、行き場のないもやもやとしたものを感じました。それは、いまにしてみれば「嫉妬」と形容するのが適当であったように思います。
まだじぶん自身が出版社をつくるというイメージはなく、むしろ逆に「小説家」として出版社に請われる立場になりたいと願っていたころのこと。
漫画と小説--ジャンルは異なれど、表現者として唯一無二の視点をもつ作者をまぶしく感じながら、「もたざるもの」である自らを呪いました。
ここに描かれている漫画は、すばらしい。でもなぜ、このような作品を描く才能をもつのがわたしではなかったのか。
賞賛したいきもちと、手放しに認めてしまいたくないくやしさ。複雑な思いを抱きながらも、おなじ創作に携わる身としてとらんす少女ちゃんは目を離せない存在になっていきました。

ところが、この漫画家を知ってすでに4年。一向に書籍化の話など聞こえてきません。
トランスバッシングが止まない世の中の背景もあり、出版社も(学術書やルポルタージュならまだしも)娯楽性の強い漫画として選ぶには難しいテーマなのかもしれないと、そんなふうにも想像します。

出版社の設立を決意したとき、このままだれも手を挙げないなら、わたしがやろう……いや、わたししかいない、わたしがやるべきだと思いました。
わたしは、わたしの読みたいような作品を具現化するために、小説を書いてきた。そのわたしが嫉妬するような才能なのだから、絶対に埋もれさせてはいけない。
--それが探し求めていた、「在野社」の必然性ということになります。

その時点ではいきなり単行本を出すということは考えてなく、まずはZINEのような小さい文芸誌を立ち上げ(ちょうどわたしが関わった同人誌「温々」のように)、作品を連載してもらい、ある程度ページ数が貯まったところで作品集にする……というような構想を描いていました。どこの馬の骨かもわからないような、ぽっと出の怪しげな会社に、作品を託すのは作者側にとってもリスクだろうと考えたのです
まずは連載を通し、すこしずつお互いの信頼関係を築いたうえで、単行本として編む。そうした流れが好ましいと思いました。


そのとき構想していたミニ文芸誌「在野通信 The letters from wastelamd」の仮ロゴ。この企画自体はいまも可能性を模索している。

 

しかし実はこのとき、とらんす少女ちゃんのX(元Twitter)は「鍵アカウント」状態になっていました。
フォロー外のわたしは、そこになにが書かれているのかわからないながらも、ことは一刻を争うものではないかと感じました。交渉するチャンネルを探したところ、Pixivアカウントがまだ閉じられていないことを突き止め、乱文を承知でダイレクトメッセージを送信。あまりにも切羽詰まった結果、当初の構想も忘れ、いきおい「単行本の出版を考えている」と……。こうなったらもう、あとには引けません。

このような事態になって、正直、返信を期待してはいなかったものの、数日経って返信が届きました。
いてもたってもいられない嬉しさの反面、「私生活の多忙さから漫画執筆をやめようと思っている」こと、さらには「年内中にXアカウントも閉める予定だった」ことが書かれていて、なんともいえない重苦しさを感じます。
しかし同時に、小社の提案を受け、前向きに出版を検討することも併せて返信に盛り込まれていました。もし提案がすこしでも遅れていたら、この企画は影もかたちもなかったのではないでしょうか。ある意味では、奇跡的なタイミングだとも言えます。

ただし、作者は人生設計上、漫画制作の時間を減らすことは避けられないと語り、単行本もこの一冊かぎり。言い換えればこれは、「とらんす少女ちゃん」としての活動を振り返り、ひとつの区切りをつけるための作品集です。ずっと漫画を描き続けてもらいたいと望むわたしからするとさみしさも多分にありましたが、ともあれプロジェクトはそんなふうに走りはじめました。



 

ところがおもしろいことに、最近になって作者は、「漫画を描き続けていきたい」と前向きなきもちを述べるようになっています。
2022年5月のあの日、バンコクではじまったわたしの「あたらしい旅」が、ずっと遠いところにいたひとりの漫画家の未来にも影響しはじめました。
バタフライエフェクト。ほんのわずかな可能性がすこしずつ、でも大きく揺さぶるようなうねりを生み出したのです。
かつて作者の才能にひどく嫉妬したわたしに、「数年先の未来で、おまえはそのひとと一緒に本をつくるようになるよ」とうそぶいてやったら、どんな顔をするでしょう。
人生という旅の妙を禁じえません。


(「とらんす少女ちゃん」より/この作品が「とらんす少女ちゃん」というペンネームのもとになった)


本作のために惜しみない協力をしてくれる、知己のある漫画家(このひともまた、沼津というコミュニティのなかで知り合ったひとりである)が、まだ編集者としておぼつかないわたしをこのようにたしなめました。
「漫画家にとって、デビュー作はほんとうに大切な一冊なんです。今後の作家人生に関わってくるような……」
彼女は、版元がどのようなキャリアを積み上げてきた会社かはまったく問題でなく、ただこれは「デビュー作」なのだ、だから丁寧に仕事をしなければならないのだと説きました。
わたしはどこか経験やスキルのなさを、言い訳にしていたのかもしれません。そのような半端な態度を見透かされたようで、恥ずかしくなります。
それ以来、一冊かぎりの単行本であるという認識を捨て、漫画家の大事な「デビュー作」を預かっている身なのだと、きもちを改めました。

一方でわたしにとっても、これが「デビュー作」となります。書籍編集者とはどのような役割をもつ仕事なのか、語れるだけの実績や経験などありません。
わたしは「とらんす少女ちゃん」の作品をもっと読みたい。それを可能にする環境を作者に用意したい。発表の場をつくりたい。
それがただひとつ、わたしの望むすべてであり、「あたらしい旅」のなかで手に入れた、書籍編集者というアイデンティティの原点であるように感じています。

どうか、応援くださるとうれしいです。



(「とらんす少女ちゃん」より/「前を向きたい」というきもちを、背中側から描く。わたしが「とら少」の作品のなかでいちばんすきなカット。どのような文脈の上にこのカットがあるのか、ぜひ作者のPixivページで読んでみてほしいです……)


合同会社在野社 浅野葛

 



3.書籍概要

【タイトル/著者名】
「となりのとらんす少女ちゃん」(仮)/とらんす少女ちゃん

【フォーマット】
A5版 200ページ(本文/予定)

【収録作(予定/すべて仮題)】
・退廃的なトランスの話
・未来から来た自分に女になるよう説得される話
・友達を家に呼べない男子の話
・書き下ろし新作

【発売日】
未定(2025年春ごろ)

【価格(予定)】
紙書籍:1600円+税
電子書籍:1000円+税

【出版】
合同会社在野社

 

4.作者より

これまでわたしの隣にはいろんな人がいました。
ある幼馴染は、わたしが初めて女性服を着た醜い姿を受け流しました。ある級友は、わたしを女友達にしました。身内は、わたしの性別移行の歩みに協力しました。一方、わたしに酷いことをする同級生もいました。価値観を押し付ける先生もいました。わたしのことが嫌いなトランスジェンダー当事者もいました。わたしに関心の薄い人達もたくさんいました。
いろんな人と出会うたび、その人がその人なりにわたしと関わり、わたしはわたしなりにその人と触れ合い、すべてが今のわたしに繋がります。わたしがこれまで描いてきたのは、フィクションでありながらも、そんな、誰かの隣に生きているであろう「とらんすちゃん」たち、ひとりひとりの物語です。
素敵なものにすることをお約束しますので、是非ご協力いただけたら幸いです。

とらんす少女ちゃん

 


 

5.応援コメント

本作に掲載する作品のうち、現在組版が完了している「退廃的なトランスの話」(仮題:「なにせ男だから」)について、有識者の皆様にサンプルを配布し、ご感想を寄せていただきました。 そのうちの一部を抜粋します。
全文は随時「活動報告」ページにて更新していきますのでお楽しみに!


くすぐったい木漏れ日みたいに光の当て方が上手。ずるいほどのリアリティ。
——周司あきら(作家)

「わかりやすい物語」の先にある、現実のトランスジェンダーのリアリティに触れる、新鮮な経験。
——三木那由他(哲学者)

わたしはこの方の描く漫画をもっと読みたいです。
——白野ほなみ(漫画家)

虹色に光ることもなく、ピンクとブルーに別れることもない、トランスの生を一度は満たす灰色の感情がただよっている。
——高井ゆと里(哲学者/「トランスジェンダー問題」翻訳者)

 


 

6.作品試し読み

前段で有識者にお配りした作品を、作者Pixivページ/Xにて公開予定。
ここではその一部をご紹介します!

 

※※※続きは作者SNSにて公開中!※※※

Pixiv https://www.pixiv.net/artworks/122585343#7
X https://x.com/trans_shojo/status/1836762652506517924?s=61&t=gF5jmKUBhf7Gh7bRz9_3Xw

 


 

7.ご支援のコースと返礼品一覧

ご支援のコースと返礼品(リターン)をまとめました。
(詳細・注意事項等は、各プランのご支援画面をごらんください)
一般販売後では手に入らない特典もございます。この機会にぜひご検討ください!

※電子書籍版は権利の都合上、1名さまにつき1冊のお渡しとなります。電子書籍の贈呈を含む複数プランにお申し込みいただいた場合でも、贈呈は1冊のみとなります。あしからずご了承ください。

①【電子書籍プラン】1000円

もっともお気軽にご支援いただけるコースです。作者および版元・在野社からのお礼メールを送信するとともに、電子書籍版「となりのとらんす少女ちゃん」(仮)を贈呈します。

※電子書籍価格:1000円+税(予定)

◉電子書籍を1冊プレゼント
◉作者と版元からお礼のメール送付

 

②【紙書籍プラン】2000円

「となりのとらんす少女ちゃん」(仮)作者サイン入り紙書籍を贈呈します。サイン入り書籍は一般販売後には入手困難となります。この機会にぜひ!

※紙書籍価格:1600円+税(予定)

◉紙書籍(作者サイン入り)を1冊プレゼント(送料込み)
◉作者と版元からお礼のメール送付


③【コンプリートプラン】6000円

紙書籍と電子書籍を1冊ずつプレゼントします。加えてオリジナルライナーノーツ(非売品)も付属する、まさに「全部入り」のプラン。
作者インタビューやここでしか読めない制作秘話などを含むライナーノーツは、ファン必携の一品です。
ライナーノーツの再配布はありません。本クラウドファンディングでのみ入手可能です。お見逃しなく!

◉オリジナルライナーノーツ(非売品)を1部プレゼント

※A5版 26〜32ページ程度を想定

◉紙書籍(作者サイン入り)と電子書籍を1冊ずつプレゼント
◉作者と版元からお礼のメール送付

 

④【布教プランA】8000円

コアなとら少ファンに向けたプラン。じぶん用に一冊、布教用に一冊、保存用に一冊。オタクの流儀ですね。もちろんすべて作者サイン入りです。
紙書籍版に加えて電子書籍版もついてくるので、電車のなかでもスマホでパッと読みたいシーンを出せますし、オタ友に突然プチプレゼンをカマすこともできます。オリジナルライナーノーツも付属。満漢全席な内容です。


◉紙書籍(作者サイン入り)を3冊プレゼント(送料込み)
◉電子書籍を1冊プレゼント
◉オリジナルライナーノーツ(非売品)を1部プレゼント
◉作者と版元からお礼のメール送付

 

⑤【布教プランB】10000円

コアというところを超えて、もはや「信者」とも言えるあなたのためのプラン。【布教プランA】より紙書籍がたっぷり2冊分マシマシ。
トランスジェンダーの理解促進のため、知り合いに贈呈したり、図書館や公的スペースへの寄付という用途にも適しています。

◉紙書籍(作者サイン入り)を5冊プレゼント(送料込み)
◉電子書籍を1冊プレゼント
◉オリジナルライナーノーツ(非売品)を1部プレゼント
◉作者と版元からお礼のメール送付

 

⑥【「特別協力」プラン】15000円

【ライナーノーツ付きコンプリートプラン】の内容に加えて、本作「となりのとらんす少女ちゃん」巻末に「特別協力」としてお名前を掲載いたします。
この作品や作者「とらんす少女ちゃん」をより多くのひとに知ってもらいたい、という思いを共有してくださる皆様にぜひご検討いただきたいプランです。

◉巻末に「特別協力」として、お名前を掲載

※個人/法人の区別はありません。どちらでも可能です。

◉オリジナルライナーノーツ(非売品)を1部プレゼント
◉紙書籍(作者サイン入り)と電子書籍を1冊ずつプレゼント
◉作者と版元からお礼のメール送付

 

⑦【オリジナルイラストプラン(限定8名)】45000円

前号【特別協力プラン】のすべての返礼品に加えて、作者「とらんす少女ちゃん」が、あなただけのオリジナルイラストを制作。イラストは観賞用だけでなく、SNS等で使用するアイコン、バナーなども可能。ご支援者さまのご要望にできるかぎりお応えいたします。

◉オリジナルイラストの制作

※おおまかなご要望を入力し、ご送信ください。制作は2025年春ごろから順次開始します。
実際の制作にあたっては、メールなどで数回のやりとりを想定します。またイラストはすべてデジタル制作/データ納品となり、サイズ上限はA4(210mm×297mm 300dpi)までとします。手描きイラストのご要望は受けかねますので、あらかじめご了承ください。

◉オリジナルライナーノーツを1部プレゼント
◉紙書籍(作者サイン入り)と電子書籍を1冊ずつプレゼント
◉巻末に「特別協力」として、お名前を掲載(希望者のみ)
◉作者と版元からお礼のメール送付

10/6(日)まで早期割引10000円OFFの35000円でご用意しています(限定4名)。お早めにどうぞ!


⑧【版元応援プラン(限定5名)】100000円
「在野社」めっちゃ推せるやん、応援しとんでー!……というあなたのためのプラン(最近、作者の大阪弁をよく聞いているのに、あんまりうまくならないな?)。

◉在野社より今後発売される書籍を、永続的に無償で1冊献本(紙媒体のみ)
◉在野社が本店を置く沼津市のディープなスポットを、小社代表浅野とコミュニティメンバーの案内でめぐる「全力歓迎沼津ツアー」へのご招待(希望者のみ/交通費ほか実費は参加者負担)
◉巻末に「特別協力」として、お名前を大きく掲載(希望者のみ)
◉オリジナルライナーノーツ(非売品)を1冊プレゼント
◉紙書籍(作者サイン入り)と電子書籍を1冊ずつプレゼント
◉作者と版元からお礼のメール送付

【「特別協力」プラン】のすべての返礼品に加えて、在野社から刊行される書籍の永続的な献本(紙媒体のみ)、在野社の本拠地「沼津市」を全力で紹介する「沼津ツアー」へのご招待を含みます。
「沼津ツアー」は、代表の浅野だけではなく、コミュニティの仲間たちの協力ももらいながら、沼津の知られざる穴場スポットをご紹介したいと考えています。
「ラブライブ!サンシャイン!!」だけじゃない!沼津のサブカルシーンに在野社あり、と語られる日も遠からずやってくるだろう……なんてね。
在野社のストーリーに共感してくださる皆さまに捧げます。応援よろしくお願いいたします!


そうそう、沼津は実は某スクールアイドルアニメの聖地としても知られているんですよね……もともとサブカルとの融和性の高い土壌があり、在野社がこのような場所で立ち上がってきたのも必然だと言えます

⑨投げ銭
作者の今後の活動のために寄付したいという方のために設けてあります。上の8つのプランとご一緒に申し込むことも可能です。
最小1000円から受け付けております。ご寄付いただける金額をご入力の上、ご送付ください。
御礼メール以外のリターン等はとくに想定しておりませんが、お寄せいただいた金額に応じてなんらかの御礼をしたいと考えています。
詳細はお問い合わせください。

 


 

8.ご支援金の使用用途

今回のクラウドファンディング(CF)で寄せられた支援金は全額、本作「となりのとらんす少女ちゃん」(仮)の制作費用と印刷費用、および販促営業費用に充てられます。

まず第一目標は50万円です。
プロダクションに必要な資金を集めつつも、どれだけのひとが「とらんす少女ちゃん」という漫画家の作品を求めているのか、版元として可能性を調査したいという趣旨をこのクラウドファンディングは兼ねており、若干ハードルを低く設定しております。

ところで本作は漫画というカテゴリーではありますが、価格帯としてはハードカバーの文芸書に近い位置づけです。薄利多売という、一般的なコミックスのビジネスモデルをそのまま適用することはできません。
それでも、5000部を売り上げてようやく採算ベースに乗ります。仮に初版5000部発行した場合の予算は約250万円。第一目標金額はその20%ということになり、諸費用を賄うにはまだ足りません。

ですから、第二の目標を目指します。
第二目標は250万円です。上述の通り、5000部を発行するために必要な予算の満額ということになります。
目標金額を達成した後も期間中CFは継続されるので、期間いっぱいを通して、この金額を達成させることが目標となります。

しかしながら真の目標は、本作をヒット作にする=1万部以上売り上げること。第3の目標、第4の目標もまだその先にあります。クラウドファンディングがもつ広報/マーケティングツールという側面をフルに活用し、より多くのひとに本作を知ってもらう活動を展開していきます。
皆さまにいただくご支援は金額以上に、どれだけのひとびとが「とらんす少女ちゃん」という漫画家の作品を求めているのかを、わたしたち版元が知る機会を与えてくれるという意味でとても貴重なものです。ぜひ、皆さまの声をお聞かせください。わたしたちも全力で、それに応える所存でおります。

なお今CFが残念ながら成立しない場合につきましても、(皆様に寄せていただいたご支援は決済されませんが)刊行を目指して本作の制作自体は継続されます。

 

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